知られざる皇宮警察の世界

皇皇后両陛下と皇族を守る華麗なる部隊!

天皇家や皇族の行事でみかける高貴な制服姿。
皇室を専門に護衛する皇宮警察で、意外な車両も配備する。
接する機会のない華麗な世界をみてみよう。


厳粛に護衛する特殊な警察に潜入!!
茶道も馬術もこなすスーパーポリス

皆さんは皇宮警察という警察組織をご存じだろうか。1886年に当時の宮内省内に創設された警察組織で、幾多の変遷を経て1954年に「皇宮警察本部」と改称され、現在に至っている。天皇皇后両陛下をはじめとする皇族方の護衛並びに御所などの警備を専門に行う組織で、警察庁の附属機関である。本部は皇居東御苑内にあり、皇宮警察学校も同所に存在する。

警察署にあたる護衛署というものが4カ所あり、2カ所は皇居内(吹上・坂下)、1カ所は赤坂御用地内(赤坂)、残る1カ所は京都御所内にある。

皇宮警察の場合、警察官ではなく「皇宮護衛官」と呼称される。階級も都道府県警察とは異なり、「皇宮巡査」「皇宮警部」と、独特な呼称が特徴的だ。意外なことに機動隊も編成されており、「皇宮警察特別警備隊」という名称で運用されている。機動隊員が着用するヘルメットや出動服を着用、透明の盾や機関銃も装備として保有している。

皇宮護衛官は、常に皇族方のお側で警備にあたっているということで、教養や心身の状態も抜かりなく警察学校生活で鍛えられる。都道府県警察学校では珍しい、茶道や生け花、短歌も授業科目のなかに取り入れられているほかに、騎馬隊を設けていることから馬術訓練も必須で行っている。馬と接することに戸惑いながらも上達していく学生も多いようだ。

皇族方に随行し、常に身辺で警衛(警護という文字は皇族方には使用せず、警衛という言葉を用いる)を担当するのが「側衛官」という皇宮警察版のSPたちだ。常に私服(スーツ着用)で任務を遂行しているが、TPOに合わせてカジュアルな服装や式典の際は燕尾服を着用することもある。登山やスキーなどの際もそれらに適した服装で任務にあたっている。

SPと違い、両陛下や皇族方の直近で影のように静かに佇んで護衛にあたっている様子が印象的だ。

3

皇宮警察の白バイ隊
珍しい黒サイドカー

皇宮警察本部には都道府県警察同様、白バイ隊が存在するが、街中での交通取締にはいっさい従事しない。任務は皇族方や国賓の車列の警衛警備のみである。都内における車列警衛で目にする機会が多いのは黒ボディのサイドカーである。

皇宮警察本部に納入されているサイドカーは、舟部分が左右のどちらかに付いている。これは車列警衛時にサイドカーが4台、要人車両の四方を守りながら走行するためだ。

白バイを使用した車列警衛は、筆者が知るかぎり地方への行幸啓(天皇皇后両陛下が外出すること)や行啓(皇太子ご夫妻が外出すること)にかぎられている。必ず訪問地に白バイを運搬し、現地警察の白バイなどとともに車列警衛にあたり、万全の警備態勢を構築する。

ちなみに皇宮警察の白バイのサイドボックス後方には、左右に五三桐の紋章が装着されている。これは他の警察本部ではみられない装備である。

皇宮警察本部の白バイ。天皇陛下や皇太子殿下の地方訪問の際に訪問地の警察本部とともに警衛にあたる。行事によってはこのような儀礼用制服を着用するが、普段は警視庁などの白バイ隊員同様、青色の制服を着用している

皇宮警察本部の白バイ。天皇陛下や皇太子殿下の地方訪問の際に訪問地の警察本部とともに警衛にあたる。行事によってはこのような儀礼用制服を着用するが、普段は警視庁などの白バイ隊員同様、青色の制服を着用している

ホンダGL1800サイドカー。漆黒のボディが高貴な印象を漂わせる。緊急時の対応も万全で、舟部分を浮かせてウィリーさせることも可能な技術を持っている。撮影時は大雨だったが、晴天時と変わらぬ安定した走行を発揮していた

ホンダGL1800サイドカー。漆黒のボディが高貴な印象を漂わせる。緊急時の対応も万全で、舟部分を浮かせてウィリーさせることも可能な技術を持っている。撮影時は大雨だったが、晴天時と変わらぬ安定した走行を発揮していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意外なクルマを採用
皇宮警察のパトカー

皇宮警察本部にもパトカーが配備されている。といってもカラーリングは黒や紺一色だ。皇居などの敷地内のみをパトロールしているので、公道を走行することは滅多にない。

日産ティーダラティオのパトカー。黒ボディが印象的だ。ほかにトヨタアリオンやスバルインプレッサG4なども導入されている。地味なセダンだが、赤色灯と黒ボディがかっこよく感じさせる!?

日産ティーダラティオのパトカー。黒ボディが印象的だ。ほかにトヨタアリオンやスバルインプレッサG4なども導入されている。地味なセダンだが、赤色灯と黒ボディがかっこよく感じさせる!?

導入車種は、トヨタアリオンや日産ティーダラティオといった車種が主力でコンパクトセダンが配備されている。普段の任務で逃走車を追跡する必要がないことや、皇居という場所柄細い道が多く、自然が多いので環境に配慮しての車種選定といった理由があるかもしれない。

かつては初代トヨタプリウスの後期型が配備されていた。ボディカラーはパール系の水色で、「皇宮警察」の文字も入っており、すでに引退したのが残念な、皇宮警察を象徴するパトカーといえた。

ほかにも警衛用の覆面車両を保有しており、スバルレガシィや日産エルグランドなどが配備されている。

これらは皇族方や後述する新任大使の信任状捧呈式の車列警衛警護時に使用されている。

 

颯爽と儀式を見守る
華々しい皇宮騎馬隊

新任大使の信任状捧呈式の際に撮影した皇宮警察騎馬隊。騎馬隊は大乗車の馬車の戦闘で警護する。悠々と進む馬車列に足を止めて撮影する人も多い。

新任大使の信任状捧呈式の際に撮影した皇宮警察騎馬隊。騎馬隊は大乗車の馬車の戦闘で警護する。悠々と進む馬車列に足を止めて撮影する人も多い。

日本には警察の騎馬隊が3つ存在する。

京都府警察の平安騎馬隊、警視庁の騎馬隊、そして皇宮警察本部の騎馬隊だ。皇宮警察本部の騎馬隊は特に儀礼的な役割が多く、普段彼らを目にできる機会は、着任した特命全権委任大使や公使がその国の元首が書いた信任状を天皇陛下に捧呈する信任状捧呈式が多い。

宮内庁車馬課の儀装馬車に大使が乗車し、その周囲の警護を皇宮警察騎馬隊と警視庁騎馬隊が行う。数としては8頭が合同で警護にあたっている。

信任状捧呈式の経路は、東京都千代田区にある明治生命館を出発し、二重橋を渡り皇居宮殿へと入る。復路も同じ経路だ。この信任状捧呈式では大使は事前に馬車か車(トヨタセンチュリーロイヤル)を選択できるが、珍しさから馬車を選ぶ大使がほとんどだ。

 

宮内庁ドライバーの
門戸は開かれている

宮内庁には管理部車馬課自動車班という、運転を専門に行う部署がある。職務内容は天皇皇后両陛下の御料車や皇族方の特別車、また宮内庁幹部職員専用車の操縦である。(宮内庁では運転手のことを操縦員という)

なかでも御料車の操縦員は御料自動車操縦員と呼ばれ、自動車班のなかの10名弱の操縦員で構成されているようだ。

車馬課の車庫は皇居内にあり、その車庫には現役の御料車はもちろんのこと、昭和天皇が戦後全国を巡幸した際に使用した〝赤ベンツ〟の愛称で親しまれたメルセデスベンツ770グローサーをはじめ、初の国産御料車の日産プリンスロイヤル、天皇皇后両陛下の即位の礼パレードや皇太子ご夫妻のご成婚パレードで活躍したロールス・ロイス・コーニッシュなどが今でも大切に保管されているようだ。

この車馬課自動車班という職務柄、採用方法などは縁故のみで全貌は謎に包まれている、と思われがちだが、実際には不定期で職員を募集しており、しかも宮内庁公式HPに応募資格などがしっかり掲載されている。

それによると、応募資格は「高校卒業又はこれと同等以上の学力を有する者・中型以上の自動車運転免許取得者」で、やる気のある人にとって門戸は平等に開かれているのだ。

ボンネット上に掲出された天皇旗が翻るトヨタセンチュリーロイヤル。威風堂々たる顔立ちで、その車名に恥じない厳かな雰囲気を醸し出している。ちなみに国賓として来日した外国要人はセンチュリーロイヤルに乗車するが、その際、当該国の国旗を掲出する。

ボンネット上に掲出された天皇旗が翻るトヨタセンチュリーロイヤル。威風堂々たる顔立ちで、その車名に恥じない厳かな雰囲気を醸し出している。ちなみに国賓として来日した外国要人はセンチュリーロイヤルに乗車するが、その際、当該国の国旗を掲出する。

TEXT&PHOTO/  有村拓真
騎馬隊写真/大塚正諭