トヨタ驚愕のFCV戦略を暴く!

VWグループの影が背後にせまる中、
トヨタは世界一の座を強固にすべくいかなる戦略を採るのか!?
text/国沢充宏


 

世界的に見ると小排気量過給ガソリンエンジンとディーゼルが、少なくとも今後20年はパワーユニットの中心だと思われる。原油の埋蔵量は依然として少なくないうえ、ここにきて『コンデンセート』(豊富に取れ始めたシェールガス由来の液体。ガソリンや軽油になる)という新顔など登場。すでに10月から日本に入荷しており、継続的に供給される模様。今後ガソリンも軽油も、これ以上高くなるようなことはないだろう。

ちなみに1ℓ160円のままだとしても、リッター100円の時より燃費が40%向上すれば実質的な燃料コストは同じ。10年前に買った普通のガソリン車からハイブリッドや最新の軽自動車、クリーンディーゼルに乗り替えれば、燃料高騰ぶんはチャラにできる。電気自動車もランニングコストを考えたら安価。ということで、当面は低燃費ピストンエンジン&電気自動車になると思う。

そんな状況のなか、トヨタは燃料電池に注力している。なぜか? 自動車業界7不思議のひとつに入れてもいいくらい理解しにくいのだった。水素を作る段階から考えれば、総合エネルギー効率で電気自動車より悪く(現状だと二酸化炭素の排出量も電気自動車のほうが少ない)、エネルギーコストはハイブリッドやディーゼルに勝てない。どちらかと言えば『夢』や『理想』に近いパワーユニットかもしれません。

 効率では劣るFCVをトヨタが推進する理由

なぜトヨタが夢や理想を追いかけてるのか? 最初から大上段になってしまうけれど、おそらく日本という「国」の将来設計図に共感したんだと思う。御存じのとおりトヨタより積極的に水素社会を推進してるのが日本政府である。今や水素社会実現のためならどんな予算でも付く、という状況。戦後、お金をバラ撒いて原子力発電所の建設を推進した時とまったく同じ動きだ。国策になってます。

原子力発電の「発電コスト」は、廃炉や使い終わった燃料の廃棄コスト、事故のリスクなどまったく考えず出したもの。それと同じで、日本政府が打ち出す水素社会は熱効率やエネルギーコストを度外視している。もちろん原子力発電所より水素社会のほうが圧倒的に好ましいですけど。何より安全だ。だからこそ私も燃料電池車を買います。そして「瓢箪から駒」もあり得るかな、と期待している。

なんで燃料電池車紹介の文頭にこんなヤヤこしいことを書いているのかといえば、答えは簡単。総合的なエネルギー効率からすれば、燃料電池使った乗用車なんかあり得ないからだ。常識的に考えるなら文頭に書いたとおり、少なくとも20年は二酸化炭素の排出量でも、コストでもピストンエンジンや電気自動車と勝負できない。この点、トヨタだって充分わかっている。それでも夢を追いかけたい、というのが燃料電池車の原点です。

FCVにおいてトヨタが考える自社の役割とは

ここから本題。どうやらトヨタは「水素をどうやって作るかという点についちゃ自動車メーカーの分担じゃない」と割り切ったようなのだ。そらそうでしょ。ガソリンだって、自動車メーカーが採掘コストや利権など考える意味なし。ガソリンスタンドで買えるという前提のうえ、クルマを開発し販売している。現在トヨタがいっているのは「ガソリンと同じくらいのコストにしてください」だけ。

FCVの普及にはインフラ整備が急務。

FCVの普及にはインフラ整備が急務。

水素1㎏で100㎞くらい走る。燃費12㎞/ℓのガソリン車で100㎞走ったら、燃料代は1300円。だったら水素の価格を1㎏あたり1300円にしてほしい、ということです。自動車メーカーの正論だと思う。日本政府は水素社会を作りたい、とブチあげた。それに対し「自動車メーカーの社会的な責任をキッチリ果たしましょう」がトヨタの姿勢。アッパレでしょう。

改めて燃料電池のメリットについて紹介しておく。まず「コンパクトさ」。現時点で補機類まで含めたパワーユニットの重さ&大きさは、ディーゼルエンジンと同等。今後いちだんとコンパクトになる可能性を持っているため、次世代はガソリンエンジンと同じくらいになることだろう。3世代くらい先になるとレーシングエンジンと同等のパワー密度になると思う。そしたら小型化できます。

だからこそ今まで燃料電池完全否定派だった私も、コペ転して(コペルニクス的転回。地動説が天動説にひっくり返った、ことからくる)燃料電池車に乗りたくなったワケです。そもそも「夢」や「理想」からすれば燃料電池はすばらしい! この点についちゃ私もムカシから100%同意している。ピストンエンジンなど圧倒するほど理にかなってますから。環境にもやさしいし。

燃費面ではすでに充分!実用的な燃料電池車

燃費もすばらしい! 現時点で水素1㎏あたり100㎞程度の航続距離を確保できている。5㎏搭載するだけで500㎞走れてしまう。今の技術だと水素を700気圧に圧縮し大型のタンクに充填しているが、ブレークスルーできたら小型&軽量化可能。排出するのは水だけ(空気中のチリを含むが濾過すれば飲めます)。参考までに書いておくと、5㎏充填するのにかかる時間は3分ほど。

実際、トヨタの『MIRAI』は最高出力150馬力程度。車重1800㎏台。加速性能で2・5ℓガソリン車と同等。実用航続距離500㎞くらいのスペックだといわれている。車両価格をクラウン程度とし、3分間でフル充填できる水素を1㎏あたり1300円で販売してくれたら、もはやふつうのガソリン車の代わりに使える実用性を持っている。自動車メーカー側の「役割分担」はみごとに果たしたと考えます。

MIRAIについていえば、ガソリン車との価格差を埋める補助金が出る。それでも多少高価になるだろうけれど、当面水素ステーションで供給する水素を無料にするらしい。トータルして考えればガソリン車と同等の総合コスト(車両価格+エネルギー価格)ですむ。そして実用航続距離は500㎞近い。水素ステーションさえ近くにあれば、運用に困らないだろう(水素ステーションが増えれば万全)。

発展性や応用性は前途洋々。耐久性や燃費を悪化させることなく連続して高い出力を発生し続けられるため、ディーゼルエンジンの代替としちゃ文句なし。いっぽう、電気自動車(電池)は連続して高い出力を出すことが最も苦手。こらもう物理的に対応できないのだ。

トラックやバス、船舶用のパワーユニットとして使おうとするなら、燃料電池しかない。燃料電池の低価格化によりイッキにディーゼルエンジン代替として普及する?

トヨタが描く燃料電池社会という大きな”夢”

こう書くと、なかには「補助金漬けじゃないか」という人もいるだろう。この点に関しちゃ「そのとおり!」と答えておく。文頭に書いたとおり水素社会は日本国が打ち出したエネルギー政策である。わかりやすく説明するなら「将来を担える可能性のある子ども」なのだ。誰だって子どもに「お金を稼げ」とは言わないだけでなく、もしかしたら使い物にならないかもしれない。されど子供を作らなければナニも生まれないです。

DSC_0028 のコピー政府がトヨタをパートナーとしたのはいい選択だったと思う。燃料電池を作れる技術を持つのは自動車メーカーか重工系くらい。けれど重工系だと量産技術や、安く作る技術を持っていない。ましてや大量に販売するルートだってなし。自動車メーカーなら新しい技術を普及させるためのすべての要素を持っている。トヨタが「やろう!」といわなければ、燃料電池なんか絵に描いた餅だった。

そして大化けする可能性を持っている。燃料電池を量産することによりコストダウンできれば、後は水素を安価に供給するインフラを作ればいい。簡単じゃないと思うが、豊富にある水素を作るエネルギーのひとつである電気は、人が住んでいない場所でも作れる(遠い砂漠の太陽光発電で作った電気は日本に運べないし)。日本が世界をリードできる可能性すら持っている。私はすばらしい「夢」だと思います。